たいらくんの政治経済。

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2015/03/06

ロンドン大学で行われる学生ビジネスの実態


大麻からフランス語でのデートサービスまでありとあらゆるものが学生によって売られていることに気づくのにそれほど時間はかからなかった。ロンドン大学で犯罪学を学び始めて早くも1年。海外留学に興味のある学生には読み飽きられてしまったであろう平凡な留学日記では余りにもつまらないので、今日は少し変わった視点で海外の大学生活について書いてみよう。 

ロンドン大学ロイヤルホロウェイ校の学生サイトには、教科書や学用品等、勉学に必要な物品の売買を行うための掲示板が用意されている。多くの場合、上級生が必要のなくなった教科書を下級生に安く売ったり、大学内にあるクラブでのイベントチケットの販売等が行われているのだが、中には変わったものが売られることも少なくない。最近の例を挙げると、ベンツやシボレーの中古車、自転車、iPad AirやiPhone6等のApple製品等、買うとしてもなかなかのお金が必要になるものも平気で売られている。もはや一般的なオークションサイトのような状態になっているといっても過言ではないが、学内で友人の数を増やしていくとどうやら公式サイトでは手に入れることのできない「闇の商品」なるものも購入することができるらしい。 

冬休みが終わった1月下旬頃、パキスタン人の友人が満悦の表情で大学内のベンチに座っていたので声をかけてみると、その嬉しそうな態度の原因が分かった。彼の側には5g程のパキスタン産の大麻が入った小袋が置いてある。冬休み中に一時帰省した際に手に入れたらしい。もちろん合法ではない。イギリスでは、大麻はB級ドラッグに指定されており、単純所持の場合、無制限の罰金と5年を上限とする懲役刑が課される場合がある。更に所持する麻薬を友人に配ったり売ったりすると、流通にも関わったということで罪が重くなる。ところが、こうした大麻の規制法とは別に、警察官に大麻の所持で呼び止められた際には、簡易的な措置として90ポンドの罰金、日本円にして約16,000円の罰金がその場で課されるだけで終わる。 

多くは自分用に大麻を持ち込むが、中には大麻を利益率の高い商品として多少のリスクを負っても売ろうとする学生も少なからず存在する。「ディーラー」と呼ばれるその学生たちは、大麻1gあたり10-20ポンド(1,800-3,600円)程で売る。友人割などという制度もあり、ディーラーと個人的な友好関係を築きあげることに成功すれば、割引料金で購入できるという。ディーラーの多くは、パキスタンやナイジェリア、南米諸国等、大麻を大量にかつほぼタダ同然の金額で手に入れられる国の出身学生で占められている。空港で逮捕されるリスクは余りにも重大すぎるのだが、生活費を少しでもカバーしようと必死なディーラーたちにとっては許容範囲らしい。 

イギリスでは、他のドラッグと比べて依存性や有害性が低いとされる大麻の規制が緩い。学生間の日常会話でも、大麻を吸っていた友人の話はその日だけの話題として処理されるが、A級ドラッグであるコカインやMDMA等の場合は軽く数日間話題にされる。話題になったところで誰も友人たちを密告するようなことはしないので、盛り上がるだけ盛り上がったところで忘れ去られてしまう。 

大麻のような非合法なもの以外にも、イギリスの関税法違反で運び込まれる商品が煙草だ。イギリスでは、通常の1箱20本の煙草で安くても7ポンド(1,300円)、マルボロ等のブランド煙草であれば9-10ポンド(1,700円)程。余りにも高いので、途上国や煙草の値段が安い国の出身学生は毎回の帰省時に大量の煙草を購入しては、学内で1箱3-4ポンド程(700円)の値段で販売している。国によっては、煙草は1箱100円から200円程、仮に日本の空港の免税店で購入しても1箱300円程度なので、イギリス国内の正規販売額の半額程度で売ったとしても利益になる。とはいえ、イギリスの関税法では、1人あたり1カートン(10箱200本)までしか持ち込みが許可されていないので、税関で見つかってしまえば高額の罰金が待っている上に、場合によってはすべて没収されてしまうリスクがある。中国からマルボロの煙草を大量に密輸してきたある学生の話によれば、できるだけイギリスに戻る際に彼女と同じ飛行機に乗るようにして、煙草はすべて彼女の下着の入った鞄に入れておくと安全なのだという。確かに、女性の下着は空港の税関職員の目を誤魔化す絶好のカモフラージュになっているのかもしれないが、その彼女さんにとってはまったくもって迷惑な話でしかない。そもそも中国からイギリスに留学に来る学生の大半は、いわゆる富裕層なので、そこまでしてお金を稼ぐ意味もよくわからないが、やはりビジネスの成功者の親の子といったところだろうか。 

大学内にあるスターバックスでコーヒーを飲んでいると、英文学を学ぶフランス人留学生の友人がiPhoneを片手になにやら難しい表情で俯いていたので話を聞いてみると、なんと彼女自身が指導するフランス語の個人レッスンのスケジュールを誤ってダブルブッキングしてしまい、困っているそうだ。生徒というので同じロンドン大学の学生かと思いきや、40歳から50歳程のいい年したおじさま達が中心的な顧客なのだという。

Squarespaceで作った手作りのウェブサイトで顧客を集め、iPhoneでスケジューリングや生徒との連絡をとり、PayPal Hereという携帯型のクレジットカードリーダーで集金する。なんとも先進的なビジネスモデルで感心してしまったが、とても可愛い顔の持ち主とは思えない悪魔的なビジネスであることに後に気付かされるのだ。

彼女のレッスン費用は1時間で25ポンド(4,500円)。イギリス国内で学生ができるバイトといえば、レジ担当やストアスタッフ等で時給は平均で6-10ポンド(1,000-1,800円)程度。とはいえ、全体の学生数の約4割を占めるロンドン大学の留学生にとって、自らの時間を1000円程度の端金で売ることは納得できないらしい。彼女のように、自らの語学力を直接的にビジネスへと変えてしまう人も少なくないが、多少の美貌があれば、料金設定が高くても顧客がつく。可愛い学生に群がる中年男性の目的がもはや外国語習得にないことは明白なのだが、こうした学生の中にもキスまではOKだったりと自分でルールを決めてビジネスに勤しんでいる人が少なくない。彼女らからすると、これはあくまでも語学レッスンであって、それ以上でもそれ以下でもないのだという。 

語学は確かに武器になる。日本で福島原発事故に関する研究を行っていたシンクタンクでのインターンシップは時給1,000円だったが、ロンドン大学キングス・カレッジ校で似たような仕事をすると日給で27,500円貰える。私服で出勤でき、勤務中に音楽を聞いていてもいい上に、上司であるロンドン大学教授陣の研究レベルは世界的なので、話を聞いてもらったり自身が執筆した報告書の内容を評価してもらうだけでもためになる。個人的には、英語ができる日本人学生であれば、外資系企業に就職して日本で働くよりも、日本語を武器に海外で仕事をしたほうが待遇的にも格段にいいのではないかと思う。もっとも、そろそろ英語が完璧に話せるだけではなんの特徴にもならない社会になってきているので、英語以外にも特技がある方がいい。 

日本の大学でも、学生起業家が活躍している場合も少なくないが、ここではもっと手軽に学生間ビジネスが行われている。もはや合法ではない物品の売買を正当化することはもちろんできないが、個々の学生が自らのスキルや出身地のアドバンテージを活かして小規模な経済活動を行っているのには、興味をくすぐられる。留学生の多い大学なだけに、ここでのビジネスを成功させるためには、多様なニーズに柔軟に応えていかなければならないが、既にそのセンスを身につけている学生がいるのだから、上には上がいるといったところだろうか。