たいらくんの政治経済。

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2016/02/15

「AO入試」は、日本の国際競争力を低下させる

問題点の多いAO入試

STAP細胞問題の当事者で、手記「あの日」を出版した小保方晴子氏。「どうして解散するんですか?」と衆院解散総選挙を疑問視した小学校4年生になりすましたことで、安倍首相に批難された青木大和氏。社会的にも大きな話題になった両者ですが、他にも共通しているのは、どちらもAO入試出身者であることです。AO入試は、欧米型の入試制度を意識した比較的新しい入試制度として、現在では殆ど全ての国公私立大学で導入されており、先日、早稲田大学は2016年度入試よりAO入試での採用枠を全体の60%近くまで段階的に増やすことを発表しました。

結論を先に述べてしまいますが、現行制度のままAO入試を広げることは日本の国際競争力を著しく下げる非常に大きな社会的リスクをもたらす危険性があります。

AO入試が導入された背景

従来型の一般入試とは全く異なり、基本的にペーパーテストでの学力判定を行わないことを特徴とするAO入試。学科試験では測ることのできない受験者本人の社交力やリーダーシップ力などの様々なスキルを、内申書や志望動機書、面接や小論文などによって多角的に評価し、合格者を選抜するというものです。こう書けば聞こえは良いですが、実態は、大学全入時代を受けた受験者の青田刈りと一般入試の偏差値操作を目的とした入試制度で、学科試験を課さないが故に様々な弊害が出てきています。

AO入試が様々な大学で入試制度として導入された背景には、かねてより問題視されていた「学力偏重主義」が要因のひとつとして挙げられます。この対応策として、学力以外の能力を伸ばす目的で導入された「ゆとり教育」という新たな制度のもとで後期中等教育課程を修了した高校生たちの受け皿として存在するのが「AO入試」という訳です。

いわゆる「つめこみ教育」への反省から生まれたAO入試ですが、現行制度では受験生本人の学力を正確に測れないため 、本来は合格できるはずのないレベルに合っていない大学に進学できてしまうケースが続出しています。学力以外の能力も多角的に評価するはずのAO入試を突破した学生の中には、「常用漢字が書けない」「高校1年生レベルの数学問題が解けない」「全く英語力がない」などといった大学生としての基本的な学力すら欠ける場合が少なくありません。これは、受験者本人の総合的な学力を客観的に測る参考資料が高校からの内申書だけだからです。

欧米型のAO入試と日本のAO入試は大違い

仮に、偏差値40程度でNPO団体を通した政治活動を行っていたA君となんら特徴のない偏差値65の真面目なB君がいたとします。ともに偏差値65程度の大学を目指しA君はAO入試でB君は一般入試で同じ大学の入学試験を受けましたが、結果はB君の不合格発表を待たずしてA君が早々に合格を決めてしまいます。基礎学力のないA君は大学の講義の内容が全く理解できず、1年目の夏休みを待たずして大学を中退してしまいました。AO入試出身者の大学中退率が非常に高い理由のひとつとして、受験生たちの致命的な学力不足を挙げられずにはいられません。また、AO入試の入試日は、基本的に、一般入試よりも数ヶ月から半年以上前倒しで行われるため、合格発表時期も極端に早く、合格発表後の急激な学力低下に拍車をかけています。

とはいえ、AO入試それ自体が問題であるという訳ではなく、ガリ勉だけが名門大学に行くことも正しい大学教育だとは言えません。結局のところ、現行のAO入試の最大の問題点は、大学が独自に学科試験を課して公平な学力評価を行っていないという1点に集約できます。

欧米型の入試制度を参考にしたとされるAO入試ですが、欧米では日本でいうところのセンター試験のような統一学力テストの点数の提出が義務付けられている場合が殆どで、難関大学では9割近い点数を叩き出す必要があります。こうしたなかで欧米の大学の間でボランティアなどの課外活動が重視される理由は、十分な学力と意欲的な姿勢を兼ね備えたバランスの良い学生を採用するためであり、日本のような学力を無視したAO入試とは本質的に異なります。

中国や韓国などで度々報じられる過度な受験戦争の様子ですが、基本的な学力を欠く大学生を量産するAO入試の更なる拡充は、日本の国際競争力を著しく低下させる危険性が高く、制度改革を推し進める必要があります。そもそも従来型の受験は、非常に辛いもので、地道な勉強に日々取り組む必要があるものです。こうした経験を通して培った忍耐力や目標を実現させる能力といったスキルこそ、今後更に競争が過激化する国際社会において必要とされる人材ではないでしょうか。

中途半端なボランティア活動や適当な志望動機書を誇らしげに掲げて大学進学を決める人が今後増えていくとすれば、それは暗い未来への片道切符であると言わざるを得ません。

AO入試専門塾で横行する不正行為

AO入試の更なる問題点は、AO入試に特化した専門塾が現れ始めたことです。勉強方法を教わる一般的な学習塾とは異なり、AO入試専門塾は志望動機書の書き方や面接の対応方法を教えます。パターン化された書き方や口頭質問の返し方を教わることで、AO入試のためだけの知識を貯めこんでいくという訳です。なかにはお金を払って志望動機書を代筆してもらう、専門塾の講師が別に運営するNPO団体に名前だけ所属することでボランティア活動に従事したという虚偽の実績を作り上げるなど、信じられないような不正行為を行うケースも少なくありません。面接に至っては、グループ面接の際に同じAO入試専門塾に通う生徒同士で予めシナリオを作り上げておくなどといった口裏合わせも常套手段のひとつとして用いられています。

こうした不正行為を大学側が見抜くためには大変な労力が必要です。もっとも、大学側も然程受験生らによる不正行為を気にしていないのかもしれません。様々な大学で今後拡大が予定されているAO入試ですが、不正行為を働いた方が合格しやすい制度である以上、受験生本人や彼らを大学に送り出すことで利益を得る専門塾、青田刈りをすることで早めに学生を確保できる大学のどの立場にいるどの人たちにとっても不正行為をしないメリットがあまりありません。


また、一般入試枠を殆ど増やしていないにも拘らず、AO入試に固執する理由のひとつに大学側の偏差値操作の意図が見え隠れしています。一般入試枠の競争率を極端に高い状態にしておけば、学科試験突破に必要な偏差値は自ずと高くなります。偏差値主義な日本の教育現場において、高い偏差値の大学に行くことは良いことなので、一般入試枠を増やさないことは、大学にとっても高評価を維持でき、AO入試受験者にとっても受けてもいない学科試験が難しいことで入学後の嬉しさが増えるという訳です。

AO入試は、比較的新しい形態の入試制度であるが故に、従来の高校教師や学習塾講師が想定するカリキュラムでは対応できません。ところが、このニッチな市場に目をつけたのがAO入試専門塾で、その特殊性が故に一般的な学習塾とは比較できないほど高額な授業料を課している場合が殆どです。こうしたAO入試専門塾に所属する生徒が、概して親の所得水準が高く、私立高校出身で、地道な勉強を苦手とする、口だけ達者な場合が多いのは、入試制度自体が真面目に勉強をしてきた学生を過小評価してきたが故に起きている現象ともいえます。AO入試の拡充は、大学生たちの間での多様性を失わせ、経済的に恵まれない高校生や地道に勉強することが好きな学生の将来を潰してしまいかねません。

AO入試を突破する上で最も重要なのは、いかに華やかな実績を残し、それを雄弁に語れるかということに尽きます。そもそも、一般入試ではまず入学できない大学を目指しているケースが多いわけですから、自分自身に下駄を履かせて、本来の自分以上の嘘偽りの自分を演じ続けなければなりません。こうした中で得た偽りの自分やハリボテの知識、場当たり的な対策が、日本社会にどう役に立つといえるのでしょうか。 こうした視点で改めて小保方氏らをみると、新しい解釈の余地があると思えて仕方ありません。

AO入試出身者で活躍している人たちは一般入試で合格できた

それでもなお、AO入試の支持者たちはこう言うでしょう。「AO入試出身者でも英語力抜群で、基礎学力も十分、将来の夢の実現に向けて頑張っている」。でもここに大きな矛盾があることに彼らは全く気づいていません――こうした活躍している学生こそ従来型の一般入試が評価してきた学生であるということを。

意欲や社交性、リーダーシップ力などといった曖昧な能力を学科試験だけでは十分に評価できないといった問題提起から始まったAO入試ですが、問題意識を持ちすぎることで本来あった良さが失われつつあります。AO入試出身者で、様々な分野で活躍の場を広げている人もたくさんいますが、こうした人達の多くは、基礎学力もあり、必ずしもAO入試でなければ合格できなかった訳ではなく、大学で取り組みたいことが明確にあるが故に一足先に受験生活を終えられるAO入試を選んだだけに過ぎません。AO入試出身者の方が大学進学後の学力や意欲が高いといった反論がいかに的はずれなものであるかということを、AO入試推進者は身にしみて理解する必要があります。

大学とは、勉強をする場所であって、あるのかないのか分からない細胞をあると叫ぶ場所でも、小学生になりすまして政治活動をする場所でもありません。


現行の受験生本人の学力を無視したAO入試制度では、日本の未来は暗いままです。仮に、AO入試本来の目的に沿った形で日本の大学入試制度を改めるとすれば、それこそ一般入試とAO入試という区分を廃止して、学力と学力以外の能力を同時に測ることのできる、学科試験+AO入試という形が最適解なのではないでしょうか。