たいらくんの政治経済。

BLOG

2014/12/21

トヨタが描く未来とMIRAI

MIRAIはこれからの自動車の常識を変えられるだろうか

今月15日から国内での発売が開始されたトヨタの新型FCV(燃料電池車)、MIRAI:ミライ。その名の通り、未来的でスタイリッシュなデザインと内装を誇るMIRAIの燃料は水素のみ。従来のガソリン車やハイブリッド車とは異なり、二酸化炭素を一切排出せず、出るのは水だけ。まさに究極のエコカーといえるMIRAIは、これまでの自動車の常識を覆せる可能性を大いに秘めている。

アメリカの情報サービス大手のBloombergは、水素ステーションの建設等、燃料電池車を普及させる上で必要不可欠なインフラが十分に整っていない中でのMIRAIの発表の背景には、トヨタの現代表取締役社長である豊田章男氏の特別な想いがあったのではないかと分析する。同氏の祖父にあたるトヨタ創業者の豊田喜一郎氏は、黎明期にあった自動車産業が将来大きく成長することをいち早く確信した人物の一人。ガソリン車の普及という壮大な目標に向けて尽力していた同氏は、その夢半ばに57歳という若さでこの世を去ってしまったが、今年5月に58歳の誕生日を迎え、祖父の年齢を初めて上回ることになった豊田章男社長にとって、MIRAIの発表は、単なる新型モデルの発表以上の、いわば自動車産業の歴史の転換点としての象徴的な意味合いをもっているはずだという。

事実、MIRAIに関するホームページには、MIRAIを単なるエコカーのターニングポイントとしてではなく、自動車の歴史のターニングポイントにしようという強いメッセージが記されている。そんなトヨタの想いと世界最高レベルの技術の結晶ともいえるMIRAIは、実用に耐えうる十分な性能を誇っている。駆動用バッテリとして34個のニッケル水素電池を搭載し、最高速度は175km/h。加速性能は0-100km/hで10秒と、一般のガソリン車と遜色ない仕上がり。駆動性能の他にも、極めて高い安全性能も備えており、ミリ波レーダー方式を採用したプリクラッシュセーフティシステム(衝突予防安全装置)や隣の車線を走る車両を感知するブラインドスポットモニター等、最新のセーフティーシステムも搭載されている。なによりも重要なポイントが、燃料がガソリンではなく水素であるために排出される二酸化炭素の量がゼロで、水素タンクを1度満タンにすれば、約650kmの連続走行が可能という点だ。

もっとも、原油価格の下落でガソリンの一般小売価格も低下しているという状況の中で、MIRAIの購入を考えている人々の最大の関心事といえば、燃料となる水素の市販価格ではないだろうか。今年11月には、全国各地で商用水素ステーションの整備に取り組んでいる岩谷産業が、都心部での水素の小売価格を1,100円/kgに設定すると発表。同社のホームページには、6月に経済産業省・資源エネルギー庁が発表した水素・燃料電池戦略ロードマップの基準に則り、2015年は「ガソリン車の燃料代と同等以下」、また、2020年には「ハイブリッド車の燃料代と同等以下」の実現を目指すと明記されている。

トヨタが公表しているデータによれば、MIRAIの場合、走行距離1kmあたり約10円の燃料費がかかるということなので、タンクを1度満タンにするのに約6500円の費用がかかる。1kmあたり約10円という燃費は、プリウスやアクア等、トヨタが既に市販しているハイブリッド車の燃料費と比較すると依然として高いものの、通常のガソリン車よりは低い。今後、水素ステーションの普及に伴って、水素価格の低下・安定化が見込めるため、とりわけ環境に配慮したエコライフを送りたい消費者にとっては、十分現実的なレベルの経費というわけだ。

気になるMIRAIのメーカー希望小売価格だが、税込み723万6000円からと少し高めの価格設定。まだ普及していない最新の技術を搭載した車ということで分からなくもないが、これでは多くの人にとってそう簡単に手がだせるものではないだろう。もっとも、MIRAIの場合、政府のエコカー補助金・優遇制度に加えて最大約202万円のクリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金が支給されるため(支給条件として最低4年間の保有義務の履行が必要)、225万円程小売価格よりも安く買うことができる。こうした公的な補助制度が、MIRAIの購入を検討している消費者を後押しすることは間違いはないだろう。

トヨタが満を持して発表したMIRAIだが、燃料がガソリンと同様、引火性のある水素を用いているために、安全性に疑問を呈する声が少なくない。だが、R水素ネットワークは、水素が爆発するから危険と誤解される主な根拠に、①水素の燃焼範囲が広い②極めて小さなエネルギーで着火する、という2点が挙げられるとした上で、『空気に4%混ざると燃える気体になる水素ですが、拡散性が高いため、開放した空間で濃度4%以上になることは、ほとんありません。空気より軽い水素は漏れ出て酸素と混ざり、燃え始めた瞬間に上昇し消えてしまっています。「素早く拡散する」という安全確保上有利な物性は、実験でも証明されています』と説明。トヨタ側も、ガソリン車同様、引火爆発の危険性はあるものの、実用上必要な安全基準は満たしているという姿勢を崩さなかった。ちなみに、トヨタが独自に実施したMIRAIの安全性能に関する検証実験の過程では、水素タンクに穴を開けても、その瞬間燃料の水素が気中に拡散するために、引火爆発の危険性は極めて少ないと結論づけられている。

具体的に水素で動く燃料電池車がどれほど安全であるかについては、今後更なる検証が必要となるわけだが、環境を汚染しない燃料電池車の普及は、持続可能な社会に向けての重要な要素となり得ることは間違いないだろう。既に国内での販売が開始されたMIRAIだが、アメリカやヨーロッパ等では、来年以降の発売となる。トヨタが描く未来は、MIRAIの成功に懸かっている。

0 件のコメント:

コメントを投稿