特定秘密保護法に反対する学生有志の会SASPL(Students Against Secret Protection Law)は、今月10日に施行開始予定の特定秘密の保護に関する法律への抗議を目的とした2日間にわたる首相官邸前デモ活動を実施すると宣言。デモ活動1日目を終えた今日、TwitterやFacebook等のSNS上では、SASPL主催のデモ活動への参加報告や応援コメント、2日目のデモ活動に向けて意気込む投稿が目立った。慢性的な不況の影響から、暫くの間厳しい就職氷河期に身を晒さなければならず、希望すら持てないようになっていた日本の若者が、若者の草食化なる不本意なレッテルを剥がそうと何かと熱心に取り組むその姿は、世間からの注目を浴びるようになった。若い世代が元気であることに越したことはないのだが、残念なことに(若気の至りともいえるかもしれないが)そのエネルギーはあらぬ方向に逸れ続けている。
そもそも彼らが問題としている特定秘密の保護に関する法律、通称、特定秘密保護法とは一体どんな法律なのだろうか。昨年12月13日に交付されたこの法律の総則には、同法の目的が記されている。
「この法律は、国際情勢の複雑化に伴い我が国及び国民の安全の確保に係る情報の重要性が増大するとともに、高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される中で、我が国の安全保障(国の存立に関わる外部からの侵略等に対して国家及び国民の安全を保障することをいう。以下同じ。)に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることに鑑み、当該情報の保護に関し、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏えいの防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資することを目的とする」
よくある法律と変わらず長ったらしいので簡単に要約すると、「インターネットが普及してきて国の安全保障に関わる情報が漏れやすくなったから最も重要な情報は特定秘密としてちゃんと管理するよ」ということ。同法三条には、その特定秘密の対象となる事項が「当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」であると示されているが、何度読み返しても結局のところ何が秘密の対象となるのかはいまいちはっきりしていない。
政権与党である自民党は、ホームページ上に掲載しているコラムで「自衛隊の保有する武器の性能や重大テロが発生した場合の対応要領といった、国と国民の安全にかかわる重要な情報」等が特定秘密の対象となると説明しているが、特定秘密かどうかの判断は行政機関の長が下すため、政府による恣意的な情報隠蔽が行われるのではないかという批判が殺到した。事実、法律制定の過程でも、具体的にどのような基準でどのような事項が特定秘密として指定されうるのか、という問題を巡って熱論が交わされた。
こうした批判に対して、自民党は「[特定秘密]指定が恣意的に行われることがないよう、政府は、安全保障に関する情報の保護、情報公開、公文書管理等の有識者の意見を聴いた上で、特定秘密の指定等の基準を作成することとしており、大臣等は、当該基準に基づいて指定を行うことになります」と説明しているが、知りたがり屋の反対派の怒りを鎮めるには至っていない。もっとも、同法律が具体性にかけており、特定秘密の指定基準が明確でないという批判は十分に的を射ているように思えるが、個人的には、今まで国と国民の安全にかかわる重要な情報を保護することを目的とした法律がなかった方が恐ろしいと感じる。
自民党の説明を読む限り、同法律の目的があくまでも漏れたら国や国民に深刻な影響を与えかねない重要な情報のみに限られていることは明らかだが、想定されている法律運用がまるでなされず、国民が知るべき有益な情報までひた隠しにされては困る。そういった考えられる問題を防ぐ意味でも、法律施行後も慎重に状況を見極める必要は当然にある。だが、そもそも人間というものは、他人が知っていて自分が知らないことという状況を認識するとどうしても知りたくなるものではないか。好奇心ともいえるこの性質は、誰しもが本能的に持ち合わせている性質のひとつであり、多かれ少なかれ度が過ぎることで痛い目に遭うものではないかと思うのだ。少し冷静になって考えると、同法律が特定秘密に指定するであろう情報、例えば、自衛隊の装備の詳細仕様や運用情報、北朝鮮問題等の外交情報等は国民が知ったところであまり意味はない上に、他国に知られてしまえば対策を講じられてしまう可能性も高い。加えて、アイスケースに入る姿を自ら熱心に他人に伝えたがる人が少なくない今の世の中、自らの利益や秘密はおろか、国全体の安全保障に関わる利益や秘密を守ってくれない国民がどれだけ存在するのか考え始めると寒気さえ感じる。
とはいえ、反対派の怒りは、単純に同法律が何をどんな基準で特定秘密に指定するのか明確でないという点だけに集中しているというわけではない。賛成派・反対派の双方ともに、同法律が国や国民生活に関わる重大な影響を持っているという点では意見が一致しているようだが、反対派の人々に言わせれば、これほど重要な問題に関連した法律であるにも拘わらず、あまりにも性急に過ぎるというわけだ。実際、同法律制定に係る法案は、昨年11月26日の安全保障特別委員会で強行採決された後に、同日中に衆院本会議を通過し、翌月5日には国家安全保障特別委員会も強行突破した上で、同月6日の参院本会議で正式に可決成立するという過程は、誰の目から見ても、王将の餃子提供時間並に短いように感じる。もっとも、急いで制定した割には、施行日が施行開始までの最長1年間という期限ギリギリの今月10日に決まったことからも、政府としても結局のところ慎重にならざるを得なかったのだろう。
前述のSASPL(そもそも首相官邸の英文資料によれば英訳正式名称はThe Act on the Protection of Specially Designated Secretsだから、SASPLじゃなくてSATAPSDSじゃないの??てかなんで日本の法律なのに英語略称なの??)は同法律について、「特定秘密保護法は、独立性の高いチェック機関を持たないままに行政が曖昧な秘密の範囲を指定できるなど、行政の暴走を防ぐことのできないままに私たちの「知る権利」を奪いかねないものです。また非常に重い刑罰規定やプライバシーの侵害となりかねない適正評価制度など、私たちの自由が、三権分立の効かない行政権の暴走によって著しく脅かされる可能性をはらんでいる」として、強い懸念を示しているが、そもそも国家安全保障に関わる情報に独立性の高いチェック機関がアクセスできるようになってしまえば、更にそのチェック機関をチェックするチェック機関が必要で、そのチェック機関をチェックするチェック機関も情報にアクセスできるなら更に...というように秘密を守る上で鉄則ともいえる、「可能な限り知っている人を少人数に留めておく」ということが難しくなってしまう。
そもそも行政の暴走を抑える最終手段とも言える選挙・投票行動を全世代中最も疎かにしている若者世代が、自民党の石破茂幹事長に「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われます」と馬鹿にされてしまうようなデモ活動を始めるくらいなら、もっと周囲のAKB選挙で投票行動のプロになっている同世代の仲間たちに声をかけて一緒に投票に行ったほうが何倍も良いのではないか。夜遅くまでデモ活動を平日に実施して翌朝の大学での講義に遅刻しているようではパパもママもきっと今頃怒り狂ってるはずだ。
もっといえば、今回の法案を取り上げて、国家機密レベルの情報を知り得ないことが知る権利を害することになると主張するくらいなら、より身近な、例えば、民間企業の個人情報保護に関する問題の方を取り上げるべきだった。大学生が大好きなLINEやFacebookをはじめとするSNSの個人情報規約は、特定秘密保護法並に具体性に欠けている場合が少なくない。殆どの場合、サービスの利用を始めた時点で仮に利用後に規約が大きく変更されても、サービスの利用を続けることで新しい規約を受け入れたことになる。このことがどんな危険性を孕んでいるか、特定秘密保護法の危険性を声高に主張しているSASPLの関係者ならきっと分かるはずだ。
SNSの急速な普及によって、誰もが自らの私生活に関する情報を気軽に他人とシェアできるようになった。ある研究では、Twitterの投稿内容をある程度調べることでユーザーの住所や性別、趣味さえも事細かに理解することができるのだという。本名での利用が長らく前提とされてきたFacebookでは、住所や郵便番号はもちろん、所属大学や勤務先さえもいとも簡単に知られてしまう。最近になって、Facebook社はこうした情報をユーザーが簡単に自分で管理出来るように仕様を変更したものの、未だ多くの人の重要な個人情報がグローバルに発信されているのだ。国や国民によって、大学生がどんな激しい飲み会を未成年の後輩達に強要しているか、どの学生が他人の彼氏と浮気しているかなど、知ったこっちゃないわりと重要性の低いどうでも良い情報に過ぎないが、当の学生本人にしてみれば、学期末試験の過去問情報並みの機密情報に他ならない。ところが誠に残念なことに、こうした学生にとっての特定機密は、今回政府が施行開始した特定秘密の保護に関する法律では守ることさえもできないのだ。
さぁ、12月に入ってからそろそろ本格的に寒くなってきた。首相官邸前でデモをするくらいなら、お家に帰って友達と一緒に鍋でもしたらどうだろう。あ、そうだ。せっかく第47回衆議院議員総選挙が次の日曜日に迫ってきているのだから、どこの政党に投票するか話し合ってみるのも良いかもしれない。東京1区に出馬している世界経済共同体党代表の又吉イエス氏なら頼めばきっと大学の期末試験なくす法案を提出してくれるだろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿