たいらくんの政治経済。

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2014/12/18

Spotifyは日本市場で成功できるのか

Spotifyの日本上陸は果たして実現するのだろうか

2006年に設立され、2008年10月からスウェーデンでサービスを開始したSpotify。2011年にはアメリカの音楽産業にも参入し、これまでに32カ国への進出を実現している。今年5月には、ユーザー数4000万人を突破したと発表。参入障壁も多く、新規参入で安定した利益を生み出すことの難しい音楽産業で、文字通り、破竹の勢いで規模を拡大し続けるSpotify。その最大の特徴は、なんといっても有料ユーザー数の多さであろう。ユーザー数の内訳に着目してみると、総ユーザー数の実に約25%に相当する約1000万人が有料会員。ちなみに、その月額使用料は、イギリスの場合は£9.99(約1800円)、アメリカ$9.99(約1200円)、オランダを含むユーロ圏では€9.99(約1500円)と各国各地域で流通している通貨レートで若干の差があるものの、ネットサービスの月額料金としては決して安くない料金設定となっている。 

まずは簡単にSpotifyのサービス内容を説明しよう。有料会員の場合、無料会員と比べて高音質で再生できる他、音声広告もなく、プレイリストがシャッフルされることなく自由に聴きたい曲を選ぶことが出来る。無料会員は、ある程度質の高い音質で再生できるものの、聴きたい曲を選ぶことはできず、再生されている曲が気に入らなければ、回数制限はあるものの、次の曲へとスキップすることができる。一見、面倒で効率の悪い仕組みのようにも思えるが、アーティスト毎や曲のジャンル等まとまった曲のグループでシャッフルされるため、これまで聴くことのなかった曲を聴く機会が増え、新しい自分好みの曲を見つけることもできる。 

4000万人というユーザー数は、音楽ストリーミングサービスとしては世界最大級。2013年の売上高は実に7億4686万ユーロで、2012年の4億3028万ユーロと比較しても前年比74%近い成長を遂げた。Spotifyの売上高の91%は、上述の有料会員からの月額使用料から発生しており、残りの9%は広告収入等が占めている。売上の大半を広告収入に依存している多くのネットサービスとは異なるビジネスモデルを誇るSpotifyだが、1年で1100億円近い売上を記録する一方で、同社は昨年5780万ユーロ(約85億円)もの純損失を記録している。2012年の純損失8670万ユーロよりも減ってはいるものの、多くのユーザーを抱えてもなお1ユーロの利益も出せずにいる。 

その理由の一つとして、Spotifyが各国のレコードレーベルに支払っている著作権使用料が挙げられる。Spotifyは現在、ワーナーミュージック・グループ等の大手レコードレーベル等と契約を結んでおり、1再生当たり約0.7~1円程の使用料をレコードレーベルに支払っており、こうした著作権使用料の支払いは、Spotifyの売上高の7割近くを削っている。また、同社がユーザー数獲得のために海外の新規市場開拓を目的とした多額の投資を繰り返してきたこともまた、売上が利益へと直結していない要因となっている。 

とはいえ、徐々にその存在感を強めているSpotify。このままサービス提供国を増やしつつ、有料会員の割合を高めることができれば、多額の利益を生み出すに違いない。欧米の若者を中心に絶大な支持を集めてきたSpotifyだが、日本ではそれほど知られていない。それもそのはず、日本では依然としてサービス提供がなされておらず、数年前にSpotifyが公式に日本でのサービス開始が予告されてから時間だけが過ぎている状況だ。音楽情報サイトのMusicman-NETでは、特別連載として「取り残される日本 Spotifyのジャパン・パッシングはなぜ起きたか」といった記事を掲載しているが、半年前までSpotifyの採用情報ページ上で東京勤務の会計担当者のリクルートを行っていたことからも、Spotifyが完全に日本市場を無視しているとまでは言いにくい。 

Spotifyの日本市場参入が難航している背景の一つに、日本の音楽産業の特徴ともいえるCD売上中心の産業構造が挙げられる。日本レコード協会の報告によると、昨年のCDを含む音楽ソフトの生産額は2704億円。一方で、有料音楽配信サービスの場合は416億円と低い。世界各国で音楽配信サービスが成長する中で、日本の音楽産業は低迷の一途を辿っており、CDも音楽配信サービスも年々市場規模を縮小し続けている。こうした特殊で縮小気味な日本の音楽産業への進出にSpotifyが二の足を踏んでいるのも、単純に利益を出せる見込みに乏しいからではないのか。東京オフィスでのリクルーティングとして会計担当を募集していた理由も、果たして日本で儲かるのかどうか確かめたかったのではないかと邪推してしまう。 

そこで、筆者なりにSpotifyが日本市場で成功を収めるための3つの提案をしてみたい。まずは、広告重視の収益モデルの強化。Spotifyを無料会員として利用すると、音楽再生中に時折ランダムに音声広告が流される。一見、広告というと鬱陶しい存在に思えるが、音楽と音楽との間に20秒程の広告が入ることはそれほど気になることでもなく、欧米風のドラマチックな演出やジョークを交えた音声広告であれば、新鮮な感じもする。無料と新しいもの好きな日本人であれば、テレビで嫌というほど慣れている広告など気にも留めないかもしれない。まずは、有料サービスの重点化というよりも、無料を謳い文句にアクティブユーザー数を増やすことのほうが先決かもしれない。有料会員になれば、音楽再生中にランダムに流れる音声広告等が取り払われるため便利ではあるものの、円安もあってかアメリカやイギリス水準のの月額使用料は割高感が否めない。既に日本市場には、ソニーが提供しているミュージック・アンリミテッドという月額980円の音楽配信サービスがあるため、1000円を超える月額料金の設定は、もはや現実的ではない。 

次に、日本の大手レコードレーベルとの契約の他にも、ネット上で活躍するアマチュアミュージシャンやニコニコ動画で有名な所謂「歌い手」を支援するクリエイタープログラム等を立ちあげて、ネットユーザーの認知度や関心度を高めることも日本市場での成功の鍵となるかもしれない。既存のサービスやミュージシャンといかに連携を強められるかは、日本の音楽市場を制覇する上で注意しなければならない点の一つだ。Spotifyがこれまで通り、アメリカやイギリスのミュージシャン中心のラインナップのまま日本市場に進出しても、依然としてJ-POP人気の強い日本では苦戦を強いられるだろう。Spotifyは、プレイヤーやアプリのデザインにも見て取れるように先進的で洗練されたデザインが特徴的。Spotifyがこうした芸術的なデザイン性を売りにアマチュアのミュージシャンの心を掴んだ上で、彼らが自らの音楽を売るプラットフォームとしての地位を獲得できれば、Youtubeや他の動画配信サービスではほぼ全くといって良いほど利益の出せない新しいミュージシャンにも活躍の機会をもたらすに違いない。 

最後に、具体的なサービス使用場面を意識した効果的なプロモーションの必要性。公共交通機関が発達し、人口過密気味な日本の主要都市では、スマートフォンやMP3プレイヤーで音楽を聴いている人々が決して少なくない。電車での通勤や通学場面でのSpotifyの活用は大いに有り得るシチュエーションだ。毎日のように通勤通学している日本人の多くは、毎回同じプレイリストを聴くことに飽々しつつも、その適切な解決方法を探せずにいるかもしれない。Spotifyは、ユーザーの好きなアーティストや曲のジャンルというおおまかな基準の中で曲をシャッフル再生するという仕組みために、これまでユーザーの聴いたことのないユーザー好みの曲を見つけやすいという最強の謳い文句がある。こうした具体性に富んだプロモーション活動を行えばきっと、日本人ユーザーの獲得に繋がるかもしれない。 

音楽ストリーミングサービスのグローバルスタンダードになりつつあるSpotifyであるが、日本に上陸する日は果たして来るのだろうか。ヘビーユーザーの一人としては、Spotifyの日本でのサービス開始のその日が来るのが待ち遠しいて仕方ないといったところだ。

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