たいらくんの政治経済。

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2015/07/21

欺瞞に満ちた留学生が得た偽りの栄光

組織的な不正行為を防ぐ方法はあるのだろうか

一度でも留学を志した人であれば誰もが直面した最初の難関は恐らく英語能力試験だろう。なかでもアメリカの非営利団体「エデュケーショナル・テスティング・サービス(ETS)」が主催しているトーフル(TOEFL)は、アメリカやオーストラリア等、多くの英語圏の高等教育機関が海外からの入学希望者の英語力を判定する際に用いる試験として最もよく知られている。

2005年以降、トーフルはコンピュータを用いた試験形式を採用しており、受験者は基本的に自身の居住地に最も近い受験会場でテストを受ける。試験結果は、0-120点のスコアで判定され、所謂海外の難関大学を受験するためには、最低でも100点以上のスコアを得る必要がある。試験時間が約4時間にも及ぶトーフルは、英語を母国語としない外国人の英語力を正確に判定するもので、信頼性の高い試験として絶対的な地位を確立していた。

ところが昨年2月、BBC英国放送協会のドキュメンタリー番組が潜入取材を通して明らかにした衝撃的な事実が世界に知れ渡った。イギリスの移住コンサルティング会社「スチューデントウェイ・エデュケーション」が、学生ビザの延長申請を行った一部の外国人留学生を対象に、なんとトーフルのスコアを偽装するという不正行為に加担もしくは共謀していたのだという。BBCが一年間に亘って実施した潜入取材のビデオ映像には、試験監督を務める同社の社員が、試験終了間際に全てのリーディング試験の解答を読み上げるという信じられない光景が克明に記録されていた。

他にも、スピーキング試験の際に、受験者本人になりすました同性の別人が受験者本人に代わって試験を受けるという替え玉受験の一部始終も映し出されており、組織的な不正行為の全貌が明らかにされた。トーフルを主催するETSは、BBCの取材に対して、不正行為の検知・防止のために出来る限りの対策を講じていると答えているが、本来、不正を防ぐために配置されている試験監督がこうした行為に加担してしまっては、対策のしようがない。

上述の移住コンサルティング会社は、英語力の足りない(もしくは完全に英語が話せない)外国人留学生を対象に、500ポンド(約10万円)で「合格保証」を付けていたとされるが、これは通常のトーフルの受験費用の3倍以上に相当する金額だ。トーフルで合格点を取れない学生は、この法外な受験費用を会社に支払った後、当日は本人確認のための写真撮影に参加するだけで、後は替え玉受験者の真横で待っているだけで後日合格点を満たした成績証明書を手に入れることができる。こうした学生の中には、殆ど全くといって良い程英語が話せない学生も少なくなかったという。

イギリスでは、学生ビザ申請の際に必要な書類としてトーフルの成績証明書が要求されていたが、今回の事件で不正行為が発覚した受験者の多くは、イギリスの大学で学ぶというよりも、イギリスに学生ビザで入国後、就労することを目的としていた。英国内務省のテレサ・メイ大臣は、今回の組織的な不正行為に対して、非常に衝撃を受けたとコメント。早急に対策を講じる必要があると主張した。

事件発覚後、英国国境局はトーフルの受験会場を提供していた2ヶ所のカレッジを閉鎖した上で、今後トーフルを英語能力の判定資料として受け付けないことを発表した。現在では、ロンドン大学を含むイギリス全ての高等教育機関でトーフルでの英語能力証明はできなくなっており、代わりに英国のブリティッシュ・カウンシル等が共同で主催しているIELTS等、他の英語能力判定試験を用いた英語能力審査を行っている。

今回の不正行為は、トーフルの英語能力判定試験としての信頼性を著しく損なう重大な問題であるが、ETS側は、今のところ抜本的な対応策を整えられていない。イギリスには毎年、勉学を志す多くの外国人留学生が訪れているが、こうした一部の学生と請負業者による不正行為が、イギリスの外国人留学生全体の信頼と実績を根幹から揺るがす問題になりかねないのは自明のことだ。

世界各国から多くの外国人留学生を受け入れているイギリスの高等教育制度は、巨大なビジネスチャンスを生んでいるが、教育関連企業や団体の中にはこうした組織的な不正行為を働いてでも多額の利益を生み出そうとする人々がいるという訳だ。

今回の事態を深刻視したテレサ・メイ内務大臣は、昨年12月、現行のイギリス学生ビザ制度は悪用されているとした上で、イギリス国内の全ての外国人留学生に学位取得後、強制的に帰国させる法案を検討していると述べた。対立野党の労働党の代表者らは、国内の外国人留学生はイギリスに巨額の投資をもたらしているとして反対しているが、前回の国政選挙で安定多数を確保した保守党が求める厳格な移民のコントロールの動きは、学生達にも及ぼうとしているのが現状である。少なくとも今後、更なるビザ要件の厳格化や在住許可期間の短縮化、卒業後のイギリス国内での就労活動の制限等が設けられる可能性は十二分にあるといえる。

本来、英語圏の大学の卒業式で学生が着るアカデミック・ガウンは、実力で英語力と専門知識を手にした努力家だけに与えられるもののはずだ。つまらない悪あがきをしてまでもイギリスに残ろうとする一部の外国人留学生のせいで大多数の外国人留学生が割を食うことには納得できないが、少なくとも今回の不正発覚が、保守党政権の政治的な思惑を後押しする結果となってしまったのは残念という以外ない。

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