たいらくんの政治経済。

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2015/04/18

アジアインフラ投資銀行は中国に成功をもたらしたのか



先月31日に創設メンバーとしての登録期限日を迎えたアジアインフラ投資銀行、通称AIIB。中国が主導する形での設立を目指している新たな国際開発金融機関である同銀行は、アメリカ主導の世界銀行や日本主導のアジア開発銀行(ADB)と競合する存在として認識されている。これまでに57カ国が創設メンバーとして参加表明しており、独自の金融機関の設立を通じてアジア地域の開発に貢献するという中国の試みは成功しつつある。

興味深いのは、アメリカ政府からの痛烈な批判があったにもかかわらず、大半のアジア諸国に加えて、アジア圏外からの支持、とりわけアメリカの同盟国と考えられているヨーロッパ諸国からの絶大な支持を取り付けることにAIIBが成功したということだ。これに対し、中国の国営放送局である中国中央電視台(CCTV)は、「同盟諸国にAIIB加盟を取りやめようとさせたアメリカ側の必死な試みも失敗に終わったようだ」と報道している。アメリカの思惑通りに事態が進展しなかった要因の1つとして、既存の国際開発金融機関による基礎的なインフラ建設を行うための取り組みが不十分だったことが挙げられる。アジア開発銀行の試算によれば、インフラ整備におよそ8兆ドルもの費用が必要となると考えられているが、世界的な金融危機の発生以後、同銀行や世界銀行はアジアの新興国向けの援助を減額してきた。言うまでもく、主要なインフラ整備計画の遅れは、当事国である新興諸国のみならず、先進諸国の利益にも深刻な悪影響を及ぼす。

2年前の2013年にインドネシアのバリで開催されたAPEC首脳会議にて、中国の習近平国家主席が、「アジア新興諸国の経済的なニーズを満たすために資本強化に取り組む」と提唱して以降、中国政府が地域内の経済発展や資本投入を支えるためにより積極的な役割を果たすとの期待が世界各国から寄せられていた。

ここ最近の中国による新しい開発金融機関の設立に向けた働きかけは、アジア新興諸国からの期待に応えるためにも、中国がより大きな責任を担うとする強い意思の表れであるともいえる。イギリスの経済学者であるジョン・イートウェル氏は、「中国の通貨である中国元の国際通貨としての機能拡大に伴い、中国政府が国際金融市場の安定化をもたらす国際機関の発達に寄与することへの責任を認識し始めた」と分析。各国がAIIB設立に対して前向きな考えを示す一方で、今のところアメリカと日本だけが主要先進国(G7)の中でも慎重姿勢を崩していない。

長らくの間、アメリカと日本は、国際金融システムにおいて強大な影響力を維持してきた。アジア開発銀行を例にとってみると、アメリカと日本の出資比率がそれぞれ15.56%と15.67%であるのに対して、中国の出資比率は6.47%に留まっている。アジア開発銀行では、世界銀行と同様に出資比率に応じて議決権が決定されるため、中国はこれまで意思決定過程に限定的にしか関与することができなかった。当然のことながら、アメリカや日本の政策決定者や経済学者の多くは、ここ最近の中国の動きの本当の意図は、文字通り、アメリカと日本によって支配されている現行の国際金融システムを弱体化させることにあるとみている。

しかしながら、AIIB設立に向けた手続きが順調に進められる中で、アメリカと日本が戦略の変更を迫られたのは明らかだ。現在、両国は同盟諸国にAIIBへの不参加を呼びかけるというこれまでの働きかけに代えて、中国側に国際金融機関に相応しい基準を満たすように求めている。実際、NHKが、「アメリカ財務省長官のジャック・ルー氏が中国主導のアジアインフラ投資銀行に対して、世界銀行を含む既存の国際開発金融機関と強調するよう強く求めた」と最近になって報道したのに加えて、麻生財務大臣も中国側にアジアインフラ投資銀行の不透明な貸付基準や運営上の問題を指摘している。

大多数のアジア諸国やヨーロッパ諸国が調印式典に駆け込んだことで、アメリカと日本だけが取り残されたかのように思える一方で、こうした事態は、偶然にも、両国政府がワシントンと東京との間に存在する絆の強さを再認識するきっかけをもたらしたともいえる。加えて重要なのは、2つの経済大国を欠いたアジアインフラ投資銀行の実際的な有効性に対する疑問や資金上の懸念が出始めているという点だ。

従って、アジアインフラ投資銀行を完全に機能させ、アジア経済に貢献できるよう確実化するためにも、中国政府は、貸付基準の明確化や真に民主的な組織運営を達成するための実現可能で信頼できる計画案を示す必要がある。アジアインフラ投資銀行の設立を巡る中国政府の取り組みは、懐疑的なアメリカや日本に対して重要な外交的勝利をもたらしたといえるかもしれないが、それはまだ(スポーツの大会で言えば)一回戦を勝利したに過ぎない。

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