たいらくんの政治経済。

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2014/04/28

これからは民主主義すら買える時代



"What Money Can't Buy: The Moral Limits of Markets"の著者、マイケル・サンデル教授は何と言うだろうか。殆ど全てのモノとサービスに値段が付けられているアメリカで、陳列棚に新商品が並ぶことになりそうだ。 

アメリカ最高裁は、今月2日、政治献金の1人当たり上限規制を違憲とする判決を下した。個人が複数の候補者とPAC等と呼ばれる政治資金団体に献金できる上限額、それぞれ48,600ドルと74,600ドルが撤廃され、理論上、いくらでも政治献金ができるようになる。ちなみに、判決ではブッシュ政権時代に大統領から指名された保守派の裁判官5名全員が違憲の判断を下した一方で、リベラル派の4名は合憲とした。 

実は、4年前の2010年にも同じような最高裁判決が下されている。2010年1月21日に下されたシチズンズ・ユナイテッド判決では、アメリカ最高裁が企業や団体の選挙資金拠出を制限していた連邦法を違憲と判断。この時も保守派の裁判官5名とリベラル派4名との間で判断がきっぱりと分かれている。政治献金を通じた資金拠出や寄付の自由を言論の自由の一部と見る保守派に対して、リベラル派は莫大な資金によって民主主義の持つ本来の価値が失われると反論。真っ向から対立してきた政治献金規制法案に対する憲法判断は、保守派の持つ「5票目」によって常に違憲とされてきた。 

アメリカにおいて、政治献金に上限が課されるようになったのは、ニクソン政権時代に起きたアメリカ史上最大規模の政治スキャンダル、所謂「ウォーターゲート事件」以降から。ホワイトハウスに対する国民の信頼回復を主たる目的として、個人や企業、団体からの政治献金を規制する法案がまとめられた。 

ここ最近の政治献金緩和の流れは、アメリカのみならず全世界が注目する大統領選や連邦議員選等、選挙関連の費用の高騰に対応する目的もありそうだ。オバマ大統領が2選目を果たした2012年アメリカ大統領選挙は、黒人大統領の歴史的な2選目であったと同時に、アメリカ史上最もお金のかかった選挙でもあった。大統領選挙全体でかかった費用は25億ドルと見積もられ、70年代以降、アメリカで新しい大統領を決める度に選挙費用が高騰してきている。 

莫大な選挙資金の多くは、候補者の選挙キャンペーンやその対立候補のネガティブキャンペーン等の広告費用に費やされてきた。こうした選挙広告が最も過熱化するのが、スイング・ステートと呼ばれる激戦州である。代表的な激戦州であるネバダ州やフロリダ州、ウィスコンシン州等では、前回の大統領選で実に30万回ものテレビCMが流された。 

今回の最高裁判決は、大統領選挙等における1人の候補者への献金額上限を予備選挙と本選でそれぞれ2600ドルとする条項には影響しないとされているものの、政治行動委員会(通称PAC)を経由した企業や個人の献金額の上限が撤廃されたことによって、事実上、選挙資金規制関連法案が形骸化することになる。 

近年、選挙資金全体におけるPAC経由の資金の割合が高まる中、今回の判決によって、アメリカの政界が巨額の資金を持つ個人や産業界の影響を受けやすくなることは、所得の少ない一般市民の声が益々届きにくくなることを意味する。所得や人種の隔たりなく自由に主張し、政治を動かしていくという民主主義の根本原理が覆されることになりそうだ。 とはいえ、アメリカの政治献金システム全てに問題があるわけではない。アメリカでは、政治献金や政治資金の出処を証明する資料の公開が義務化されており、「誰が誰にお金を渡したのか」を正確に追跡することができる。こうした政治資金の透明性は、政治家への資金提供が時折問題となる日本とは対照的とも言える。 

日常生活に大きな影響を与える政治。こうした政治的活動を支える資金の在り方を問う今回の最高裁判決は、アメリカ国民にとっても、それ以外の国にとっても注目すべきテーマであることは間違いない。もっとも、現行の政治資金関連の透明性を担保する法律が正常に機能していたとしても、献金額に上限を設けないことは、アメリカの政治がお金持ちによってコントロールされやすくなることを意味する。

仮にあなたが巨額の資産を持ったアメリカ国民の1人で、サンデル教授と一緒にハーバード大学近くの商店に行く機会があったとして、陳列棚に並ぶ「民主主義」とプリントされた商品を見たら教授はこう問いかけるだろう。 

―それをお金で買いますか?

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