たいらくんの政治経済。

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2014/04/28

日本一高価な島で起きた悲劇



東京から直線距離にして1740km。太平洋上に形成された珊瑚礁の島である沖ノ鳥島は、畳数枚分程の広さしかない。そんな絶海の孤島で、5名の尊い命が失われるという悲劇が起きた。

五洋建設を含む3社が共同して建設にあたっていたのは、海洋調査等を行うための船舶を係留する目的で計画された長さ100mの桟橋。工事を受注した国土交通省の資料によれば、桟橋の総工費はなんと750億円。本土から遠く離れた無人島に、これほどまでの巨額の費用を投じる理由はなんだろうか。東京都小笠原村に属している沖ノ鳥島は、日本最南端の島として広く知られている。政府がこれまで巨額の投資を続けてきた理由に、この島の「位置」が深く関係している。

現行の国連海洋法条約では、領海から200海里(約370km)までを排他的経済水域として認めており、沖ノ鳥島は、硫黄島と沖大東島の間の排他的経済水域外の水域を南側から蓋をするように位置している。沖ノ鳥島がなければ、硫黄島と沖大東島の間の海域は公海となり、周辺国も自由に海域調査や資源探査を行うことができるようになる。だが、この海域が日本の領有する沖ノ鳥島、硫黄島、沖大東島の3島に囲まれることによって、本来であれば排他的経済水域が及ばず公海扱いとなる海域も自国の排他的経済水域の圏内となるわけだ。

沖ノ鳥島を失えば、日本は自国の国土面積を上回る排他的経済水域も同時に失うことになる。今後、海底油田やメタンハイドレートの開発、水産資源の確保等、日本にとってこの海域の重要性が高まっていく中で、沖ノ鳥島を失う訳にはいかないという訳だ。ところが、肝心の沖ノ鳥島が長年の波による浸食の影響で今にも太平洋に沈みそうな状態。そこで、政府は昭和62年から2年の歳月をかけて、島の周辺50mに消波ブロックを積む補強作業を行った。ちなみにこの補強作業に投じられた費用は約285億円。これほどまでの費用を投じた無人島は、他にあるだろうか。

今回の事件に関連して、現時点での報道情報によれば、建設中の桟橋が突如転覆し、桟橋に乗っていた作業員16名全員が海に投げ出され5名の死亡が確認されている。今でも2名の作業員が行方不明で、懸命な捜索活動が続いている。

建設を担当した五洋建設は、マスコミの取材に対し、「現時点で事故原因は調査中」とコメント。事故当時、海は穏やかで指定の安全手続きに従って作業が進められていたという。

海洋資源の確保は、日本にとって最も重要な国益の1つ。一般財団法人日本船主協会は、同協会のホームページ上で沖ノ鳥島を「太平洋上に浮かぶ日本一高価な島」と紹介した上で、「日本の国土面積を上回るこの広大な経済水域の漁業資源や海底の鉱物資源を考えれば、この補強工事は、資源小国日本にとって、決して高い買い物とはいえないだろう」と主張している。

天然資源に乏しい日本にとって、大きな可能性を秘めた海洋資源に莫大な投資をすること自体は合理的だが、お金には変えられない人命が失われてしまったことによって、沖ノ鳥島開発は単なる高い買い物ではなくなってしまった。

日本の国益に直結する重要な島であるからこそ、開発事業の安全性と確実性は確固たるものでなければならない。事故原因の究明と未だ捜索の続く行方不明の無事を心から願いたい。

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