たいらくんの政治経済。

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2014/04/28

NISAは年金の代わりになり得るか



昨年10月に年金支給額の引き下げが決まった。前回に引き下げに加え今後2回、つまり3段階に分けて実際に受け取れる年金が減ることになる。例えば、国民年金と厚生年金を負担した元サラリーマンの夫とその妻が受け取れる額は、来年度以降、今年度よりも約7万円近く減額される。 

加入している年金区分や加入期間に応じて減らされる金額は異なるものの、今より増えることはまずあり得なさそうだ。そもそも、昨年10月まで特例措置として2.5%増額されていたという事実をどれ程の国民が知っていただろうか。今回の減額は、この特例措置の解消による。 増え続ける高齢者と福祉負担。日本が世界で最も長寿な国の1つであることは、豊かな国民生活と高度な医療制度の賜物で、誇るべき事実であるのは間違いない。ところが、この制度は恒久的なものとは言い難く、とりわけ今の若者世代にとっては不安要素の多すぎる制度と指摘できそうだ。 

昨年8月、社会保障制度改革国民会議が安倍首相に提出した年金制度に関する報告書では、「制度の持続可能性が確認されている」等と将来を楽観視する予測が立てられた。ところが、日本の年金制度は本来、長期にわたって安定した物価上昇率とそれを上回る賃金上昇率を前提としている。当然、安定した物価と賃金の上昇は、年金の積立金を条件の良い利回りで運用することを可能とするため、年金の配当による積立金喪失を積立金運用による立て直しでの調整が期待できた。 

だが、現実はそう甘くない。バブル崩壊に伴う20年以上もの停滞経済に少しでも刺激を与えようと、ほぼ0%にしか思えない程の超低金利状態が続いた。多少景気が上向いてきたここ5年の長期金利も1%前後で推移していることを踏まえると、いかに年金制度が前提としていた社会が「どこの国の金利だよwww」状態であるかが分かる。 

さて、ここまできてしまうと、どう考えても立て直し不可能な年金制度の改革案を練るよりも年金の代替制度を考えた方が時間を有意義に使えそうだ。実は、その可能性を秘めた魅力的な制度が証券税制改革によって実現しそうなのだ。今年1月から導入されたその制度の正式名は、「少額投資非課税制度」で愛称は「NISA(ニーサ)」。年間100万円を上限に上場株式や株式投資信託等の金融商品を購入をすると、それらの配当金や売却益等が5年間課税対象とならない。 

つまり、年間100万円までであれば、通常20%程度課税される株の配当金や売却による利益を非課税でそのまま懐に入れることができる制度である。NISAの適用を受けるためには、専用の口座を開設する必要があるものの、所得税等他の税金の課税対象となるはずだった100万円を株や投信に逃がすことができる。口座開設後5年間、総額500万円まで非課税となるなんともお得な制度の導入によって、国民の貯蓄率向上や金融商品への関心度を高めることも期待できる。 

実はこのNISA、イギリスで既に恒久的な導入が決定された同様な制度を参考にしている。イギリスでは、ISA(Individual Savings Account)と呼ばれ、上場株式や株式投資信託等の金融商品はもちろん、現金をそのまま積み立てることもできる。 イギリスは今、2014年の国家予算の議論の真っ最中。主要な税政策の変更点の1つとして、ISAの上限を6月から総額11,880GBP(約200万円)から15,000GBP(約250万円)へと引き上げることが、ジョージ・オズボーン財務省のスピーチで明らかにされた。もともと、イギリスのISAは少し複雑なシステムだった。上限の11,880GBPのうち、現金で積立られるのは5,940GBP(約100万円)だけ。一方、株や投信の場合は上限はなく、11,800GBPの枠を株で埋めることも可能だった。今回の変更で、枠を現金で埋めることも可能になった。イギリス財務省は、新たに上限を引き上げたISAをNISA(New ISA)と呼んでおり、偶然か否か日本のNISAと同じ名称になっている。 

日本のNISAとの大きな違いは、非課税対象に現金が含まれている点と、制度に期限のない恒久的なものである点。それ以外については、殆ど似た制度。イギリスでは、成人の2人に1人がISAを利用しており、活用度合いの高さは注目に値する。これには非課税対象に現金が含まれていることが大きく貢献していると考えられそうだ。 

非課税対象が金融商品に限られた日本のNISAでどれだけ利用者が伸びるかは未知数だが、国内の専門家の多くは小口投資家の増加を予想している。年間100万円という額は手を出せないほどのものではなく、非課税となるのであればと新たに株に興味を示すも増えるはずだという。実は、イギリスでも現金の積立を機に、非課税に加えて更なるメリットを求めて金融商品での積立に切り替える人が続出した経緯を持つ。現在では、ISAの積立金の半分が金融商品によって積立されており、2012年時点でイギリス全体の投信残高約71兆円のうち、18%に相当する12兆円がISAの積立金だという。 


将来の年金制度を信用できないなら、嘆き悲しんだり文句ばかり言うのでなく、可能性のある代替手段を探すべきだ。NISAは、そのポテンシャルを大いに持つプランBになり得る上、利用者が増えれば制度の恒久化や上限の引き上げ等が期待できる。だが、金融商品である以上、元本割れのリスク等、年金制度では本来あり得ない問題が常に起こりうる。もっとも、年金制度すら「元本割れ」しそうな今日の日本社会。多少のリスクを負っても、収入の一部をタックスヘイブン状態で運用してみるのもアリかもしれない。

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